関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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2024年度(令和6年度) 声明

改定入管法の監理措置制度がはらむ危険性を改めて指摘し、同制度の廃止を求める理事長声明

 2023年6月、当連合会をはじめ全国の弁護士会、弁護士団体、市民団体が反対してきた「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」が可決され(以下「改定入管法」という。)、2024年6月10日から施行されることとなった。
 改定後の入管収容制度も、改定前と変わることなく国際人権法違反の状態が維持されている。すなわち、出入国在留管理庁(以下「入管庁」という。)の主任審査官が収容しないことを「相当」(改定入管法44条の2第1項、52条の2第1項など)と認めない限り、本人は司法府の審査を経ることなく収容され、退去強制令書が出ている場合には、期間に上限なく収容することができてしまう(改定入管法52条)。そして、上記の身体解放の条件となる「(主任審査官が)収容しないことが相当と認めるとき」の基準は明確にされないままである。
 今回導入される「監理措置制度」は、施設外で生活することを許される本人(以下「被監理者」という。)の日常生活等に関し、主任審査官に任命された「監理人」が「監理」を行い、主任審査官に報告する義務を定めるものである(改定入管法44条の3第4項、第5項、52条の3第4項、第5項など)。この報告義務に違反した場合、監理人は過料の制裁を受ける(改定入管法77条の2)。また、主任審査官が「監理人」を用意してくれるわけではなく、被監理者自身が監理人候補を探し、結局、家族・支援者・弁護士等が監理人に就任することが想定されている。
 監理措置下の被監理者は、退去強制令書を受けていれば一切稼働を許されず、退去強制令書を受けていなくても、就労許可がない限り稼働することができない。生活保護も受けられず、原則として健康保険すらも与えられない被監理者が食事にありつきたいと願い、あるいは病気に苦しむ子どもの薬を買いたくて、やむを得ず就労してしまったとき、改定入管法によれば、監理人はこれを主任審査官に報告する法的な義務を負うことになる。一方、監理人の報告により被監理者は監理措置を取り消され、収容される危険に直面することとなるうえ、逮捕の危険さえ生じる(改定入管法では被監理者の無許可就労には刑事罰が規定された。)。ここに、被監理者と監理人の間に深刻な利益相反が生じる。
 加えて弁護士は、その職務を行うにあたり、弁護士法や弁護士職務基本規程で規定されている守秘義務という重要な義務を負っているので、被監理者の監理措置条件違反を主任審査官に報告することは守秘義務違反にもなりうる。
 入管庁は、かかる通報や報告を監理人が行うことにつき、予め被監理者となる者の「同意」を取っておけば守秘義務は解除されるという見解を持っているようであるが、「同意」しなければ収容される条件下で本人が行った「同意」の有効性にそもそも強い疑義がある。また、仮に予め「同意」があったとしても、その後に監理人が被監理者から「違反が露見して収容されるのは嫌だ」、「逮捕されたくない」、「黙っていてください」などと哀願された場合は、同意や承諾は撤回されたものと考えざるをえず、弁護士は守秘義務と過料の制裁の板挟みに苦しむことになる。
 このように弁護士が監理人に就任した場合、通報すれば守秘義務違反との指摘をされかねず、通報しなければ入管法上の義務違反との指摘をされかねない。かかる義務の衝突が起こりうる制度下において、弁護士が監理人に就任することは、職務上大きな危険性をはらむものとなってしまう。
 また、弁護士以外が監理人に就任する場合であっても、被収容者を収容から助け出したいという支援者や親族に対して、過料の制裁付の報告義務を課して被監理者を徹底的に監視させるものであるから、支援者や親族であっても監理人に就任することは極めて慎重な判断が必要となる。そして、支援者や親族がひとたび監理人に就任すれば、監理人と被監理者との間に高い緊張関係もしくは利益相反関係が必然的に生じることとなり、監理人と被監理者との間で新たな信頼関係を構築することは極めて困難であるし、それまで築いていた信頼関係までも崩壊してしまう恐れもある。
 2022年11月、自由権規約委員会は、日本の人権状況における総括所見において、就労や収入を得る道を封じられた「Karihomensha」の非人道的状況について懸念を表明したが、入管庁は、これを無視し、特に、退去強制令書発付処分後の被監理者を現行法上の仮放免者と同様の困難な境遇に置き、彼らを餓えるままにし、あるいは医療を受ける道さえ閉ざしたままにしようとしている。改定入管法では、彼らが飢餓から逃れ、あるいは子どもたちの薬を買うために働けば刑事罰まで課すことができるようになった。まさに、自由権規約委員会の懸念する状況を改定入管法は極限まで推し進めようとしているのである。
 さらに、新制度下では、入管庁は、監理人に被監理者を徹底的に監視させるだけではなく、監理人の生活や資産の状況を含む個人情報を、公私の団体に照会する手法も含めて徹底的に調べ、監理人を監視することも可能になる(改定入管法44条の9、52条の7等)。
 以上から、当連合会は、国際人権法違反を維持し、国連機関の勧告にも抗ったまま、監理人と被監理者を「二重支配」しようとする監理措置制度の危険性を改めて指摘し、その廃止を求めるとともに、入管庁に対しても、改定入管法が国際人権法に適合するよう改正されるまでは、監理措置ではなく改定入管法54条の「仮放免制度」の柔軟な適用を求めるものである。

 2024年(令和6年)6月10日

関東弁護士会連合会
理事長 菅 沼 友 子

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