大会決議
選択的夫婦別姓制度の導入を求める決議
当連合会は、国に対して、民法第750条を改正し、婚姻の際に改姓するかどうかを選択できる選択的夫婦別姓制度を速やかに導入するよう求める。
2024年(令和6年)9月27日
関東弁護士会連合会
提案理由
- 第1 はじめに
民法第750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」とし、夫婦同姓制度を定めている。そのため、日本で法律婚をするためには、現行法上夫婦のいずれかが、それまで使っていた姓を改めなければならない。
日本弁護士連合会は、1993年10月29日付けで「選択的夫婦別氏制導入及び離婚給付制度見直しに関する決議」を発出して以来、日本政府に対し、選択的夫婦別姓制度の導入を繰り返し求めてきた。また、全国の弁護士会でも、夫婦同姓を強制する現行法が憲法に違反しないと判断した最高裁判所の2015年12月16日判決や、2021年6月23日決定を受けて、夫婦同姓強制の現制度が憲法に違反すること、及び国民の意識・社会の環境も変容しており現制度の見直しが急務であることを改めて指摘し、選択的夫婦別姓制度の早期導入を求めて会長声明や決議を発出している。
このたび、当連合会は、国に対し、改めて民法第750条が憲法に違反することを指摘した上で、日本において、真に男女が平等な社会を実現するため、民法第750条を改正し、婚姻の際に夫婦同姓・別姓のいずれも選択できる選択的夫婦別姓制度を一刻も早く導入するよう求める。
- 第2 民法第750条は憲法に違反すること
- 1 憲法第13条に違反すること
婚姻は、人生の伴侶と共に「幸福を追求」しようとするものであるから、婚姻の自由は憲法第13条により自己決定権として保障されるところ、現行の夫婦同姓制度下においては、一方当事者が改姓しない限り、法律婚をすることができない。したがって、民法第750条は婚姻の自由を直接的に制約するものであり、憲法第13条に違反する。
また、氏名は、個人の尊重、個人の尊厳の基礎をなす個人の人格、アイデンティティの一内容を構成するものであるから、その重要性に鑑みれば、「氏名の変更を強制されない自由」は、人格権の重要な一内容として憲法第13条により保障されるものである。民法第750条は、婚姻によって夫婦同姓となることを義務付け、夫婦いずれかに改姓を迫るものであるため、氏名の変更を強制されない自由を不当に制限するものであって、憲法第13条に違反する。
- 2 憲法第24条に違反すること
また、憲法第24条第1項は、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」と定めている。しかし、民法第750条で夫婦同姓を婚姻の要件とすることは、婚姻後もそれぞれが姓を維持したいと考える夫婦にとっては、婚姻の自由の直接の制約となっている。夫婦同姓制度のもとでは、自身が姓を変更する側か否かにかかわらず、自分または婚姻相手の人格・アイデンティティの一部を否定し、かつ婚姻が維持される限りそれぞれの氏名にまつわる人格的利益を同時に共有することができない。そのため、本来であれば、婚姻は、両当事者の自由で平等な合意、意思決定によってのみ成立すべきものであるにもかかわらず、両当事者がいずれも姓の変更を望まない場合、婚姻を諦めざるを得ないとの事態も生じさせる。よって、民法第750条は憲法第24条第1項に違反する。
また、民法第750条は、婚姻の際、夫婦どちらの姓を名乗っても良いとの建付けではあるものの、実際には、女性側が姓を変更する夫婦の割合が約95%にも上っている。そのため、姓を変更することによって生じるアイデンティティの喪失や職業生活上の不便・不利益が女性側に偏っている。これは、結果的に、性別による不平等が生じているといえ、個人の尊厳と両性の本質的平等を定めた憲法第24条第2項に違反する。
- 3 憲法第14条に違反すること
同姓・別姓いずれの夫婦となるかは、本来、個人の生き方に関わる問題である。現行法上、夫婦婚姻後も各自がそれまでの姓を維持することを希望するカップルは、夫婦同姓を選択しないとすれば、事実婚を選択せざるを得ないことから、法律婚によって発生する法的効果も享受できない。このように、同姓を選択する夫婦と別姓を選択する夫婦とで、婚姻による法的効果の有無に関して差別的取り扱いをすることは、合理的根拠に基づくものとはいえず、法の下の平等を定めた憲法第14条に違反する。
- 第3 男女共同参画の視点から見た日本
1999年に施行された男女共同参画社会基本法では、男女共同参画社会を実現するための基本理念を定めており、2015年に施行された女性の職業生活における活躍の推進に関する法律では、男女共同参画社会基本法の理念に基づき、国が、女性の活躍推進に向けた取り組みを行うよう定めている。
これら法の後押しもあり、官民の職場では、業務上の混乱等を避けるため通称(婚姻によって変更する前の姓)の使用を定着させてきた。しかし、税や社会保障等の公的な手続きや金融取引など、戸籍上の姓での手続が必要となるものも多く、その場合、戸籍上の姓と通称との照合に手間がかかったり、改姓によって届出書類の変更が必要になったりするなど、不都合例は依然として報告されている。また、海外では通称が一般的ではないことから、通称使用そのものがむしろダブルネームとして不正を疑われる等、不都合な例が蓄積されている。このように、日本においては通称使用が定着してきたとはいえ、結局は戸籍上の氏名と異なることによって生じる不都合は払拭されていない。むしろ、女性の社会進出が進むにつれて当該不都合がより深刻化・顕在化しているのが実態であり、婚姻による改姓が、男女共同参画社会を実現するにあたり大きな障害になっている。
- 第4 国際的な評価と国の対応
国際的に見ても、婚姻による夫婦同姓を義務付ける国は、日本のほかに見当たらない。民法第750条は、市民的及び政治的権利に関する国際規約及び女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(Convention on Elimination of All forms of Discrimination Against Women)に違反しているとして、国は、自由権規約委員会や国連女性差別撤廃委員会から是正を求められてきた。国連女性差別撤廃委員会は、民法第750条が女性に対する差別的法規であるとし、2003年から2016年の間に日本政府に対して是正勧告を重ねており、2015年の最高裁大法廷判決後の2016年には、三度目の是正勧告がなされた。
しかし、1996年に法制審議会が選択的夫婦別姓制度の導入を含む民法改正を答申しているにもかかわらず、立法機関である国会は法改正をしないまま放置し続けている。しかも放置するにとどまらず、2020年に発表された第5次男女共同参画基本計画では、第4次男女共同参画基本計画まで記述されていた「選択的夫婦別氏制度」の文言は削除され、「夫婦の氏のあり方に関する具体的な制度のあり方に関し、さらなる検討を進める」という表現となり、むしろ後退したように見える。
一方、この間、社会では、選択的夫婦別姓を容認する声が日に日に強くなり、本年5月1日に報道されたNHK世論調査でも、選択的夫婦別姓に62%、本年7月26~28日に実施した日本経済新聞社とテレビ東京の世論調査でも69%が、それぞれ「賛成」している。さらに、本年6月10日には、日本経済団体連合会も、日本政府に対し、選択的夫婦別姓の導入を早期に実現するよう提言をした。
- 第5 結論
国は、民法第750条が憲法に違反していることを真摯に受け止め、これが男女共同参画社会及び女性活躍推進の実現を阻んでいることを自覚した上で、真に男女平等な社会を実現するため、民法第750条を改正し、婚姻の際に改姓するかどうかを選択できる選択的夫婦別姓制度を速やかに導入すべきである。