関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

2024年度(令和6年度) 声明

義務教育の現場において、在留資格がないことを理由に教育を受ける機会を奪われてはならないことを再度確認し、再発防止を求める理事長声明

 報道によれば、2024年9月、さいたま市教育委員会が、同市立小学校6年生の外国籍児童について、一家で難民不認定となり在留資格を喪失したことを理由に、除籍処分を行っていたという。2025年1月24日付の報道でこれが明らかとなった後、同29日に同市教育委員会の幹部が当該児童とその保護者に「学びを止めて申し訳なかった」と謝罪し、同30日より児童は約5か月ぶりに登校を再開できたが、除籍されていた間に修学旅行は終わっていたという。同市教育委員会は、難民認定申請に関する書類の提出を求めたが提出されなかったので除籍したとの趣旨の説明をしたとされるが、難民認定申請に関する書類が提出されないことを理由として除籍することを正当化する根拠は見当たらない。
 子どもの権利条約28条は、教育についての子どもの権利を定め、同条約2条1項は締約国に、子どもに対していかなる差別もなしに同条約に定める権利を尊重し、確保することを求めている。同条約は、国連加盟国数を超える196の国と地域が締結し、世界で最も広く受け入れられている人権条約である。
 日本も子どもの権利条約を1994年に締結(批准)後、こども基本法などの関係法律の制定を含め、子どもの権利保障のための諸制度の整備を進めてきた。
 また、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)13条及び14条は、すべての者に対して初等・中等教育を受ける機会が与えられるべきであることを定めている。これらの規定による保護は、すべての子どもに対して、つまり、人種や国籍、在留資格等にかかわらず認められるものである。子どもは小学生から中学生にかけて、その心と身体を大きく成長させる。国際人権条約の諸規定は、このような時期に、子どもが教育を受けることの重要性を認めている。
 そして、こども基本法3条は、その基本理念として、「全てのこども」について、「個人として尊重され、その基本的人権が保障されるとともに、差別的取扱いを受けることがないようにすること」(同条1号)、「教育を受ける機会が等しく与えられること」(同条2号)を掲げている。また、同法4条は、国に対し、基本理念にのっとり、こども施策を総合的に策定し実施する責務を、同法5条は地方公共団体に対し、基本理念にのっとり、こども施策に関し、国及び他の地方公共団体との連携を図りつつ、その区域内におけるこどもの状況に応じた施策を策定し実施する責務を、それぞれ課している。
 さいたま市教育委員会によるこのような除籍処分は、国際人権条約やこども基本法の諸規定及びその趣旨に反して学習権を侵害するものであり、違法な処分というほかないものであり、在留資格のない子どもに対する差別的取扱いと言わざるをえない。
 このような除籍処分が報道によって明るみに出るまで問題とされてこなかったことは、教育委員会、さらには行政関係各所においてかかる取扱いになんら問題意識を持ってこなかったためではないかと疑わせるものであり、また、報道された後においても、本日現在、さいたま市教育委員会のホームページ上にはこの件に関する教育長のコメントも謝罪や再発防止策に関する記載も見当たらず、今般の誤りの重大性を本当に理解しているのか疑問があると言わざるをえないのであって、当連合会は、深い憂慮の意を表明する。
 大切なことは、あらゆる義務教育の現場において、今後、同様の事態が繰り返されないことである。当連合会は、国に対し、まず、こども施策を実施する中で、あらゆる義務教育の現場で在留資格のない子どもに就学を認めないなどといった差別的取扱いが許されないことをあらためて各所に周知徹底させ、義務教育は在留資格の有無に関わらず認めるという方針を改めて周知すること、他に本件と同様に在留資格の喪失を端緒として除籍処分にされた子どもや在留資格がないことを理由に入学を認められなかった子どもがいないか、過去も含めてしっかり調査を行い、除籍処分にされた子どもについてはすぐに復学させ、入学が認められなかった子どもについては直ちに入学させるよう指導することを求める。次に、各教育委員会は、義務教育の現場で同様の取扱いが行われていた場合は、直ちに復学させたうえ、同様の事態が生じないよう再発防止を徹底すべきである。加えて、国及び地方公共団体に対し、教育に関わるすべての者を対象として、再発防止のための研修等啓発活動を十分に実施するよう求める。

 2025年(令和7年)3月12日

関東弁護士会連合会
理事長 菅 沼 友 子

PAGE TOP