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2024年度(令和6年度) 意見書
商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)における代表取締役等住所非表示措置に関し、弁護士による職務上請求の措置等を求める意見書
2024年(令和6年)8月22日
関東弁護士会連合会
第1 意見の趣旨
1 商業登記規則等の一部を改正する省令 (令和6年法務省令第28号)第31条の2第1項における代表取締役等住所非表示措置が講じられた代表取締役等の住所について、弁護士による職務上請求によって開示する制度を創設すべきである。
2 商業登記規則第21条2項3号の「利害関係」については、法人に対して訴訟その他の法的手続を行っている当事者を含むものとし、当該解釈基準を通達等においても、明記するべきである。
第2 意見の理由
1 本省令の内容等と附属書類の閲覧における現状の問題点
2024年(令和6年)4月16日に公布された商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号。以下「本省令」という。)第31条の2第1項は、一定の要件を満たした場合は、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」という。)の住所の一部について、申出により、登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービスに表示しないという措置を定めている(代表取締役等住所非表示措置)。
当該代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合、代表取締役等の住所を把握するには、登記簿の附属書類を閲覧することが必要になるが、請求人ないしその代理人は、利害関係を疎明する資料をもって、管轄法務局の窓口まで赴くか、ウェブ会議システムを利用した閲覧請求をしなければならない。しかし、前者の方法は、請求人の住所から管轄法務局が遠方に所在する場合には、請求人に対し、大きな経済的負担を課すこととなるし、時間的な負担も大きい。後者の方法も、請求人が、窓口又は郵送で、所定の方式により登記申請書の閲覧請求を行った後、登記官が、これを相当、かつ、正当な理由があると判断した場合、請求人に連絡して日程調整を行うことになり、実際の閲覧に至るまで相当の時間を要すると考えられる上、土日祝日夜間における閲覧の機会は確保されないため、迅速な閲覧は不可能である。
さらに、附属書類の閲覧を行うことができる利害関係については、解釈基準が明確ではなく、登記官によって狭く解釈される例がある。例えば、訴えを提起した者が、法人に送達がなされなかったため、代表取締役の住所に対する送達を行うべく附属書類として提出された代表取締役の住民票等の英語表記名を確認するために附属書類の閲覧を求めたところ、利害関係(商業登記規則第2項第3号)が否定された事例も報告されており、訴訟係属が大幅に遅滞し、裁判を受ける権利が実質的に侵害されている。
2 代表取締役等の住所の開示が必要であること
商業登記における代表取締役等の住所は、①会社に事務所や営業所がない場合の普通裁判籍を決する基準となることや(民事訴訟法4条4項)、会社の本店所在地への送達が不能となった場合の送達場所となるなど、裁判上の手続きにおいて必要な情報であるほか、②消費者被害等を救済するため、一定の場合には、迅速に公開されることが必要である。
消費者被害に関しては、近年、SNS等を利用して本名や住所を明かさないまま不当勧誘等を行う事業者が増加しており、被害回復の実効性を図るためには、法人のみならず、代表取締役等の住所等から実態調査をし、代表取締役等に対しても、責任追及をすることが不可欠である。しかし、代表取締役等住所非表示措置は、代表取締役等の住所等の調査を困難にさせ、ひいては消費者被害の回復を困難にするおそれがある。
2022年(令和4年)の消費者生活相談は年間87万件、消費者被害・トラブル 推計額(既払額)は約6.5兆円にのぼる(「令和5年版消費者白書」本文19頁、36頁)。消費者被害が高止まりする現状において、従前よりも被害回復を困難にすることは、避ける必要がある。
3 弁護士による職務上請求制度の必要性と許容性
上記代表取締役等の住所等が開示される必要性に鑑みれば、弁護士が、その職務として行う請求により、迅速に代表取締役等の住所情報等を開示する仕組みを創設すべきである。
仮に、弁護士に限定して代表取締役等の住所の開示を求める制度を創設したとしても、懲戒手続(弁護士法第8章)に裏付けられた法制度上の倫理規律に服する弁護士が、その職務として行う場合に限定した制度とすれば、プライバシーの保護との調整を図ることが可能である。
この点、本省令のパブリックコメントの結果において、「犯罪収益移転防止法の本人確認の関係があるため、特に士業の特定事業者は閲覧できるようにしてほしい」との意見に対して「士業のみ無条件に閲覧可能とするようなことは困難と考えますが、今後の参考とさせていただきます。」との回答がなされている(「商業登記規則等の一部を改正する省令案に関する意見募集の結果について」No10)。しかしながら、職務上請求であれば、受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要があることや、代表取締役等の住所の利用目的等を明らかにしなければならず、無条件の閲覧を可能とするものではない。
現行制度上も、商業登記よりもプライバシー情報の量が多い戸籍や住民票について、弁護士による職務上請求が認められている(戸籍法第10条の2及び住民台帳基本法第12条の3)。そのため、新たに開示請求の制度を創設したとしても、戸籍や住民票の職務上請求手続きと同様に、使途の特定等、一定の要件を課すことにより、濫用的な開示請求を防止することは可能である。
以上より、弁護士による職務上請求によって開示する制度の創設を求める。
4 利害関係の解釈について
職務上請求制度の創設がなされた場合でも、利害関係についての解釈が狭い運用となれば、弁護士に依頼しない被害者は、代表取締役等の住所を把握することができず、被害救済ができないという事態が想定される。
少なくとも権利侵害を受けたとする請求人が、訴状その他の書面を添付して、附属書類の閲覧を求めた場合には、被害救済のために、「利害関係」を有するものとして、広く閲覧させるべきであり、上記のような附属書類の閲覧拒否により、被害者の裁判を受ける権利が侵害されないようにするべきである。
そこで、商業登記規則第21条2項3号の「利害関係」については、法人に対して訴訟その他の法的手続を行っている当事者を含むものとし、当該解釈基準を通達等においても、明記することを求める。
以上
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