決済法制に関する意見書
2024年(令和6年)8月22日
関東弁護士会連合会
第1 意見の趣旨
昨今、サクラサイト被害、詐欺的情報商材被害、詐欺的投資被害など、様々な消費者被害が増加している状況下、悪質業者に多用されている決済手段を規制することは喫緊の課題である。そこで、当連合会は、種々の決済を利用した消費者被害を防止するため、以下の法改正を行うことを求める。
- 1 割賦販売法関係
- ⑴ クレジットカード等購入あっせん業者と販売業者又は役務提供事業者との間でクレジットカード番号等の取扱いを認める契約に関与するいわゆる決済代行業者について、実質的契約締結権限を有しているか否かにかかわらず、クレジットカード番号等取扱契約締結事業者として、登録義務を課すよう割賦販売法35条の17の2を改正すること。
- ⑵ 前号により、登録義務を課されたクレジットカード番号等取扱契約締結事業者として登録を要する業者のうち、過度の義務を負担させることのないよう、販売業者又は役務提供事業者に対して割賦販売法35条の17の8の調査義務等を他の国内の業者が負担していることを書面等により疎明した場合には、同条の調査義務等を軽減するなど実態に即した制度設計とすること。
- 2 資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)(第三者型前払式支払手段関係)
- ⑴ 第三者型前払式支払手段発行者に対する加盟店調査管理義務について、割賦販売法におけるクレジットカード番号等取扱契約締結事業者と同程度の内容を具体的に法定すること。
- ⑵ 前払式支払手段発行者のみならず、いわゆる決済代行業者に対しても、加盟店管理調査義務を法定すること。
- ⑶ 番号通知型の第三者型前払式支払手段の番号等を業として転売することを禁止すること。少なくとも、古物営業法を改正し、業として第三者型前払式支払手段の番号等の転売等を行う事業者に対して、許可制を及ぼすとともに、買取時の本人確認義務及び疑わしい取引の申告義務について法定すること。
- 3 資金決済に関する法律(資金移動業等関係)
- ⑴ 収納代行、送金代行、代金引換等(以下、合わせて「収納代行等」という。)が資金決済法上の資金移動業に該当することを明確にし、原則として資金移動業の規制対象とすること。
- ⑵ 資金移動事業者が特定の第三者と契約を締結し、商品やサービス購入代金の支払いとして資金移動を業として行う場合には、資金移動業者に対し、当該第三者について、第三者型前払式支払手段発行者又はクレジットカード等信用購入あっせん業者の苦情処理・加盟店調査・管理義務と同内容の義務を法定すること。
第2 意見の理由
- 1 割賦販売法関係(意見の趣旨第1項)
- ⑴ 現行割賦販売法の状況
割賦販売法上、クレジットカード等を利用しようとする販売業者又は役務提供事業者に対し、クレジットカード等購入あっせん業者が利用者に付与するクレジットカード番号等を取り扱うことを認める契約を業として行う者に対しては、クレジットカード番号等取扱契約締結事業者として、登録義務を課している(同法35条の17の2第2号)。
そして、登録義務が課せられているクレジットカード番号等取扱契約締結事業者は、契約締結前や、定期的又は必要に応じて、販売業者又は役務提供事業者に対する調査義務が課せられ、いわゆる加盟店管理責任を課せられている。また、当該加盟店管理責任を果たしていないと認めるときは、改善命令や登録の取り消しなどの行政処分を行うことができ、当該仕組みにおいて、決済代行業者による販売業者又は役務提供業者に対する加盟店管理が図られることが予定されている。
一方、決済代行業者であっても、加盟店との契約締結について、契約締結権限を有していない者は、上記登録義務を負わず、加盟店管理責任も負わないこととなる。
- ⑵ 消費者被害の実情等
しかし、詐欺的な占いサイトや出会い系サイト、詐欺的な情報商材被害など、本来違法・不当な役務を提供している加盟店に対しても、クレジットカードを利用した決済がなされる事例が後を絶たない。一方で、当該加盟店に対し、代金の支払いを行っている決済代行業者からは、自らは実質的な契約締結権限がないことを理由に加盟店管理責任を負わないなどと主張されることが散見される。
このような事業者は、日本法の業規制が及ばない海外の包括購入あっせん業者(アクワイアラー)又は海外の決済代行業者(以下「アクワイアラー等」という。)との間で契約を締結しており、実質的に加盟店を管理しているにもかかわらず、契約先のアクワイアラー等との間で登録取得の取決めをしていない事例や、契約条項上、決済代行業者において、契約締結権限があるか否か不明なものも多い。令和4年6月に経済産業省商務・サービスグループ商取引監督課が公表した「割賦販売法の令和2年改正後の主な動向と課題」においても、登録を受けず、加盟店とクレジット番号等取扱契約を締結する事業者(無登録業者)も存在していることや、上記のような海外の決済代行業者との間で登録取得の取り決めがなされず、監督実務上課題であることが報告されている。
- ⑶ 決済代行業者の登録義務化
決済代行業者がクレジットカードの利用についての契約権限を有しているか否かについては、契約当事者以外からは明らかにすることが困難であり、規制の対象となる決済代行業者自身が、契約締結権限がないと主張すれば、規制を免れるとなれば、容易に脱法が可能であり、妥当でない。
そこで、実質的な契約締結権限を有しているか否かにかかわらず、契約締結の代理・媒介等クレジットカード等購入あっせん業者等と加盟店との間の契約に関与する決済代行業者には、広く登録義務を課すべきである。
具体的には、割賦販売法35条の17の2第2号の規定について、「当該クレジットカード等購入あっせん業者が利用者に付与するクレジットカード番号等を取り扱うことを認める契約を当該販売業者又は当該役務提供事業者との間で締結することを業とする者」とあるのを「当該クレジットカード等購入あっせん業者が利用者に付与するクレジットカード番号等を取り扱うことを認める契約を当該販売業者又は当該役務提供事業者との間で締結し、又はその代理若しくは媒介を業とする者」として、広く契約締結に関与する決済代行業者に登録義務を課すべきである。
- ⑷ 実質的契約締結権限のない決済代行業者に対する監督義務
上記のとおり、クレジットカード購入あっせん業者等と販売業者又は役務提供事業者との間の契約締結に関与する決済代行業者に対して、広く登録義務を課すべきであるが、他方で、決済代行業者において、事務的な取り扱いをしているに留まり、実質的な契約締結権限がなく、加盟店管理を行うことが契約上できないという場合も否定できない。
当該場合には、包括信用購入あっせん業者や他のクレジットカード番号等取扱契約締結事業者が加盟店管理責任を負うことが予定されているため、当該他の業者が、加盟店管理責任を負担するのであれば、その権限がない決済代行業者に対し、敢えて同様の加盟店管理責任を課す必要はない。
そこで、過度な規制を防止しつつ、加盟店管理責任を負担する者がいないという空白事態を防ぐために、登録をした決済代行業者が、他の国内の業者において加盟店管理責任を負うことを書面により疎明するなどした場合には、割賦販売法35条の17の8の調査義務等を軽減するなど実態に即した制度を作ることが妥当である。
- 2 資金決済法(前払式支払手段関係、意見の趣旨第2項)
- ⑴ 現行法上の第三者型前払式支払手段発行者に関する加盟店管理責任
資金決済法は、第三者型前払支払手段の発行を登録制とし、かかる登録拒否要件として、「前払式支払手段により購入若しくは借受けを行い、若しくは給付を受けることができる物品等又は提供を受けることができる役務が、公の秩序又は善良の風俗を害し、又は害するおそれがあるものでないことを確保するために必要な措置を講じていない法人(資金決済法10条1項3号)」としている。
そして、「公の秩序又は善良の風俗を害し、又は害するおそれがある」については、法令に具体的な定めがなく、ガイドライン(金融庁 事務ガイドライン 第三分冊 前払式支払手段発行者関係)において、「犯罪行為に該当するなどの悪質性が強い場合のみならず社会的妥当性を欠き、又は欠くおそれがある場合を広く含むものであり、こうしたものが含まれないように加盟店管理を適切に行う必要があることに十分留意する」と前払式支払手段の第三者型発行者に対し、加盟店の管理責任を規定しているに留まる(同ガイドラインⅡ-3-5)。また、具体的な加盟店管理責任については、主な着眼点として、加盟店契約を締結する時点で相手先が公序良俗に照らして問題のある業務を営んでいないかの確認、契約締結後に加盟店の業務に公序良俗に照らして問題がある場合に速やかに契約解除をすることができるか、加盟店が提供する物品等・役務の内容に著しい変更があった場合の報告義務を課しているかなどの態勢整備などが規定されているに過ぎない(同ガイドラインⅡ-3-5-1)。
このような加盟店調査・管理義務に関する規律は、ガイドラインの内容を含めたとしても、割販法によるクレジットカード番号等取扱契約締結事業者(販売業者等とクレジットカード番号等を取り扱うことを認める契約を締結する者)に対する加盟店調査・管理義務(割賦販売法35条の17の8、施行規則第133条の5)に比して簡易的な規定であり、その根拠が監督方針を定めた事務ガイドラインである点に照らしても、加盟店調査・管理の徹底を図るには、不十分と言わざるを得ない。
他方で、第三者型前払式支払手段を利用した消費者被害は、多数発生しており、クレジットカードの利用における場合と同様、悪質な加盟店を排除する仕組みを取ることが必要不可欠である。
当連合会は、平成28年3月23日付「電子マネーに関する資金決済法の改正等を求める意見書」においても、第三者型前払式支払手段による消費者被害の実態等を指摘して資金決済法の改正を求めたが、同意見書の発出から8年経過した現在においても同意見書の趣旨に合致した資金決済法の改正はなされず、実際に数多くの消費者被害(サクラサイト、詐欺的情報商材等)が生じ続けている。
そのため、悪質な加盟店を排除するため、第三者型前払式支払手段発行者に対して、割賦販売法によるクレジットカード番号等取扱契約締結事業者に対するものと同程度の具体的な加盟店調査・管理義務を法令で定めたうえで、各発行事業者に加盟店管理を徹底させるべきである。
- ⑵ 前払式支払手段に関する決済代行業者の加盟店調査・管理義務
第三者型前払式支払手段に関しては、クレジットカードにおける問題と同様に、発行者と悪質な加盟店との間に決済代行業者が介在し、当該悪質な加盟店において、第三者型前払式支払手段による金員の取得を可能とさせている実情がある。
第三者型前払式支払手段の発行者に対する加盟店調査・管理義務を法定するとしても、決済代行業者に対しても同様の加盟店調査・管理義務を課さなければ、悪質な加盟店を排除すべきか否か等の調査判断を経ることなく第三者型前払式支払手段が利用されるおそれがある。
そのため、資金決済法を改正して第三者型前払式支払手段の発行者に対する加盟店調査・管理義務を法定することと合わせて、決済代行業者に対しても加盟店調査・管理義務を法定するべきである。
- ⑶ 番号等の送付類型に対する規制について
第三者型前払式支払手段が利用される消費者被害は、発行者及び決済代行者による加盟店調査・管理義務を具体的に法定し、それに基づいて発行者及び決済代行業者が厳格に加盟店調査・管理を行うことによって、悪質な加盟店が排除され、一定程度減少することが期待できる。
しかしながら、発行者及び決済代行者が厳格に加盟店調査・管理義務を課したとしても、第三者型前払式支払手段に関しては、電子移転可能型の残高譲渡型において残高を相手に送金する方法や、番号通知型において番号等をメール等で送信する方法によって消費者が金銭を詐取される可能性が存在する。
この点については、高額電子移転可能型に該当する前払式支払手段の発行者を犯罪収益移転防止法上の特定事業者とするなど、消費者被害を抑止する一定の改正がなされている(なお、当連合会は、令和4年3月22日付「電子移転可能型前払式支払手段の規律に関する意見書」のとおり、現行よりも少額な金額設置とすべき旨の意見を述べている。)。
しかしながら、番号通知型において番号等をメール等で相手に送信する方法によって詐取される被害類型により直接的に対応する改正はなされていない。
当連合会は、平成28年3月23日付「電子マネーに関する資金決済法の改正等を求める意見書」において、番号等の買い取り・転売をする業者(以下「RMT業者」という。RMTとは、「Real Money Trade」の意。)の存在が、消費者被害の増大につながっていることを指摘し、資金決済法改正による業としての譲渡の禁止、少なくともRMT業者に対して商品券等(動産たる前払式支払手段)の取り扱いと同様の規制を及ぼせるよう古物営業法の改正を求めたところである。
しかしながら、同意見書発出後8年が経過した現在においても、依然として番号通知型の番号等を相手に送信する方法による被害が後を絶たない状況に鑑み、改めて資金決済法において、譲渡を禁止する条文を入れるか、又は古物営業法の改正(電子マネーを古物の定義に含める改正)を求めるものである。
- 3 資金決済法(資金移動業。意見の趣旨第3項について)
- ⑴ 昨今、投資詐欺やサクラサイト詐欺などの事案において、被害者が、投資資金等を収納代行業者名義の口座へ振り込むよう指示され、口座名義人である収納代行業者が、振り込まれた投資資金を詐欺会社に送金するというケースが頻発している。具体的には、以下のような事例がある。
【事例】
海外投資事案において、国内の個人投資家Aは、海外の事業者Bから投資の勧誘を受け、Bから指定されたC社名義の口座に投資資金を振り込んだ。しかし、後日、Aは投資詐欺に遭ったことが判明した。C社は、少なくとも客観的に投資詐欺における違法行為を幇助しているが、裁判において、C社の代表者は、Aの違法行為について認識しておらず、自らは、収納代行業務を依頼されたにすぎない、収納代行業者は法的には何ら本人確認や取引目的等を調査する義務もない、したがって自らが責任を負うことはないと主張している。
- ⑵ 上記C社のように、詐欺事案では、収納代行業者を名乗る会社が詐欺における決済に加担しているケースがしばしば見られる。すなわち、収納代行業者は、少なくとも客観的には詐欺の幇助行為を行っているにもかかわらず、資金決済法などの業規制の参入規制が及んでいるか否かが不明確であるため、詐欺業者にとっては使い勝手がよく、不正の温床となっているのである。
この点、詐欺等の犯罪では、被害金を確実に得ることができる決済手段が不可欠であるところ、現行法上、クレジットカード取引については、クレジットカード番号等取扱業者に対しては、割賦販売法により登録制が、銀行業における振込み等については、銀行法により免許制が、第三者型前払式支払手段や資金移動業では資金決済に関する法律により、登録制の規制など、各種の決済に関与する者に対し、一定の参入規制が図られている。加えて、犯罪による収益移転防止に関する法律により、マネー・ローンダリング防止の観点から、特定事業者として本人確認や疑わしい取引の届出等の義務が課されているため、詐欺等の犯罪収益を受領しようとする悪質業者は自らの本人確認等を恐れ、これらの決済手段を可能な限り避け、規制が緩い決済手段を利用することになる。
- ⑶ 上述した収納代行業者等は、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて又はこれを引き受けることをしている以上、為替取引にほかならず、資金移動業の登録を受けない限り、銀行法上の無免許取引として規制されるべきと考えられる。しかし、金融庁による法執行がなされた事例は公表されておらず、東京高裁平成25年7月19日判決においては、同種の送金代行業者の業務について、「為替取引」に該当しないなどと判示されていることもあり、為替取引に該当するか否かが不明確なまま、何らの業規制を受けることなく、詐欺会社が被害金を受領することを可能にしているのが実情である。
詐欺等の犯罪防止、さらにはマネー・ローンダリングの防止のためには、収納代行業者等についても、他の決済手段を提供する事業者に対する規制と同様に資金決済法上の参入制を設けるほか、特定事業者として、本人確認義務や疑わしい取引の届出等の義務を課す必要がある。
- ⑷ この点、令和2年資金決済法改正により、受取人からの委託等により弁済として資金を受け入れ、受取人に資金を移動させる行為が為替取引に該当することの確認条項が付与される改正がなされたが(同法第2条の2)、受取人は、個人に限定され、事業としてのものは除かれているため、上記事例のCのような収納代行業者等が行う業務が為替取引に該当するか否かは、解釈に委ねられ、規制が事実上及ばない状態が継続している。
また、同様に、為替取引に該当するか否かは、最終的には解釈に委ねられるとしながら、コンビニでの収納代行業務のように、支払時に支払者の債務が消滅し、二重支払いの危険がない代理受領であれば、受取人が個人であっても、為替取引の確認規定からは除外されている(資金移動業者に関する内閣府令第1条の2第1号)。
しかし、詐欺業者の支払いについては、二重支払いの危険が問題となるのではなく、詐欺の支払手段としての利用を規制することが重要である以上、本人確認もせず、参入規制もないまま、代理受領であるという点をもって、すべて規制が及ばないとすれば、詐欺業者の不正な資金決済の温床となりかねない。
- ⑸ そこで、詐欺被害を防止するべく、上記収納代行業者等が行っている送金行為を資金移動業として、原則として規制をし、参入規制・本人確認義務を課すことが不可欠である。
その上で、社会経済上、一般消費者にも認知され、特にトラブルになっていないコンビニでの収納代行、代金引換サービスなどの従前から規制を及ぼすべきではないとされる収納代行の形態については、取引内容や、金額、取引の相手方(行政機関など)一定の要件を満たしたものを規制から除外することが考えられる。
また、少なくとも、上記事例で記載したような銀行の振込システムを利用した送金代行のような業者を資金移動業として登録させるよう資金決済法第2条の2の受取人を法人・個人事業主も含めて規制するべきである。
- ⑹ 苦情処理・加盟店調査管理義務
上述のように規制の差異や隙間を利用した規制の回避を行う事業者が存在するところ、現行の資金移動業には加盟店に係る規定がないことから、悪質事業者が利用しやすいものとなっている。
そこで、資金移動業のうち、資金移動業者と予め継続的な加盟店契約ないしそれに類する契約を締結し、密接な牽連関係の下で商品やサービス代金の決済手段に利用される場合には、第三者型前払式支払手段発行業者又は信用購入あっせん業者の苦情の適切処理(資金決済法第21条の2,割賦販売法第30条の5の2,同法第35条の3の20)・加盟店調査措置義務(割賦販売法第35条の16,同法第35条の17の8)と同様の悪質取引防止措置を設けるべきである。