「支部等調査(静岡県賀茂地区)」開催報告
弁護士偏在問題対策委員会副委員長 上野 貴史(第二東京)
- はじめに
弁護士偏在問題対策委員会では、年2回、関弁連管内の弁護士が少ない地域を訪問して、当地の裁判所や行政機関、商工会等と意見交換を行い、弁護士に対するニーズ等を調査する支部等調査を行っている。
今回は、10月19日・20日の2日間で、伊豆半島の南端に位置する静岡県賀茂地区(下田市、東伊豆町、河津町、南伊豆町、松崎町、西伊豆町)の1市5町のうち、南伊豆町、松崎町、西伊豆町の3町を訪問し、町や社会福祉協議会、商工会と意見交換をした。
先ずは、今回の支部等調査に、静岡県弁護士会から杉田直樹会長をはじめ多くの会員の先生方に御参加頂いたことに対し、厚く御礼申し上げる。
- 南伊豆町、松崎町、西伊豆町の特徴
今回訪問した町は、いずれも静岡地方裁判所下田支部(下田簡易裁判所)・家庭裁判所下田支部の管轄であるが、弁護士ゼロ地域である。交通手段は、鉄道がないため、バス又はタクシー、自家用車に頼るしかない。車で、南伊豆町から下田へ15分、松崎町へ40分、西伊豆町へ50分かかる。南伊豆町から西伊豆町への移動の際、蛇石峠を越えるルートを通ったが、カーブが多く道幅も狭いため、運転には神経を使う。
また、いずれの町も高齢化率が50%前後と高く、静岡県内でトップ10に入る。現在、賀茂地区(1市5町)では、成年後見制度利用促進法に基づく「持続可能な権利擁護支援モデル事業」として、平成28年から市民後見人の養成及び法人後見に取り組んでいるものの、未だ需要を満たす数の確保に至っておらず、いずれの町も後見専門職としての弁護士のニーズは高い。
産業は、観光関連業がメインであり、地元産業の半分を占める。抱えている問題は、どこも事業承継、労働力不足等の経営問題であり、この点でも弁護士の力が必要な地域であることを実感した。
- 調査1日目
- (1)南伊豆町・社会福祉協議会及び南伊豆商工会への訪問
南伊豆町は人口7,500人。月1回の町の行政相談や法テラスによる無料法律相談(毎月1回、南伊豆町、松崎町、西伊豆町を順次巡回)を実施している。法律相談会の充足率はそれ程高くはないが、独居高齢者が多く、そもそも誰に相談したら良いかすら分からない高齢者もいると言った声も聞かれた。商工会では、独自の法律相談は実施しておらず、相談先として下田の法律事務所を案内している。
- (2)静岡県弁護士会との意見交換会
松崎町・西伊豆町につき、弁護士のニーズを感じながらも、下田に事務所を構える弁護士がこの地域までをカバーするとなると相当の負担感があるという。そのため、松崎町・西伊豆町あたりに弁護士事務所があっても良いという意見もあった。
- 調査2日目
- (1)松崎町・社会福祉協議会への訪問
松崎町は人口5,800人。船員保険年金で暮らす高齢者もいて、賀茂郡の中では生活保護受給者が少ない地域である。法テラスの巡回無料法律相談では、資力要件の関係で、有料相談に切り替えるケースもある。法律問題に直面しても事の重大性・危険性を把握していない人、泣き寝入りする人も多いという。
- (2)西伊豆町・社会福祉協議会及び松崎町・西伊豆町商工会への訪問
西伊豆町は人口6,900人。住民が下田の法律事務所に相談に行くことが困難な地域である。法テラスの巡回無料法律相談の他に、毎年1回、静岡県弁護士会による法律相談を実施している。相続や土地のトラブルの問題が多く、法律相談の需要はある。商工会では、年2回、税理士による税務相談会を実施しているものの、法律相談は実施していない。
- 最後に
今回訪問した町、社会福祉協議会及び商工会が、口を揃えて「地元に弁護士がいてくれるなら非常に有難い。」と言うとおり、まさに今回の訪問地は、司法アクセスの改善が望まれる「THE・弁護士過疎地域」であった。
その一方で、「西伊豆が好きで年に数回は西伊豆を訪れる。」という地元会の先生もいたくらい風光明媚な景観が数多く残っている。西伊豆町は、「ふるさと」と言いたくなる夕陽の町というとおり、駿河湾に沈む夕日は美しい。松崎町は、歴史や漆喰の技が光る「なまこ壁」の建造物に代表される伝統文化が薫る町である。南伊豆町は、伊豆半島最南端の大海原をひとり占めできる石廊崎に代表される紺碧の海と海岸線が魅力の町である。
興味がある方は、是非一度、訪れてみて頂きたい。同じ伊豆半島でも東伊豆とは違った趣である。当委員会の委員が、委員会を代表して(?)、南伊豆町から石廊崎灯台をモチーフにした「いろう男爵」のマスコット(非売品)をプレゼントされた。その写真を最後に添える。
(南伊豆商工会前にて商工会の皆さんと共に)