関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

シンポジウム

平成16年度 里山保全の新たなる地平をめざして

平成16年度シンポジウム委員会副委員長
山本英司(東京)

 平成16年度の定期大会に先立ち,平成16年9月25日午前10時から栃木県鬼怒川温泉の「あさやホテル」で,恒例のシンポジウムが開催されました。以下,当日の議論をご紹介します。

1 シンポジウムの意義(なぜこのテーマを選んだか)

 実は本シンポジウムの10年前,平成6年度に,同じ会場で開催されたシンポジウムも「里山保全」をテーマとしたものでした。ただ,このころは『里山』に代表される2次的自然の重要性に対する認識が低く,以前のシンポでは,里山に新たな意義づけを試みて,里山の復権を求め,提言を行いました。
 それから10年,里山の重要性に対する認識は,市民の間でもかなりの程度,定着しました。マスコミ報道にもしばしば『里山』という言葉が登場するようになり,里山を自主的に管理する多くの市民運動も全国各地に生まれました。各省庁や自治体でも里山保全の取組みが進んでいます。しかし,里山という言葉が市民権を得てきたのと裏腹に,多くの里山が開発にさらされあるいは人手が加えられなくなって,荒れるにまかされています。そこで私たちはもう一度里山に光を当てて,里山の環境が守られない原因がどこにあるのか,どのような方策を取ったら里山の消失・荒廃の流れに歯止めを掛けられるのかを探るため,再度,『里山』をシンポジウムのテーマに選びました。

2 シンポジウムの内容

 シンポジウムは百目鬼明子委員の総合司会のもと,浅野正富シンポジウム委員会委員長,高橋伸二関弁連理事長の挨拶に続いて橋本賢二郎委員が基調報告を行いました。報告は21世紀において人類が生存し続けていくためには持続可能な社会を形成していく必要があり,そのような社会を形成していくためにも,里山的環境が面として守られる社会のシステムが形作っていく必要性が強調されました。
 引き続いて,新弘江委員と私をコーディネーターとしてパネルディスカッションが行なわれ,最後に平野浩視副委員長がまとめを行いました。
 パネルディスカッションでは中川重年・神奈川県自然環境保全センター研究員より,この10年間で多くの市民団体が自主的に里山の管理を行なうようになったが,まだ点の管理にすぎず,里山の環境は全体として劣化していることが,西野寿章・高崎経済大学教授より,中山間地域の里山が農林業の衰退による集落の消滅によって大きく劣化していることが,飯島博・NPO法人アサザ基金代表より,霞ヶ浦流域で市民が主体となって行政や企業も巻き込んで進められている市民型自然再生事業「アサザプロジェクト」の紹介がされました。また,平松紘青山学院大学教授よりイギリスの「歩く権利」,即ち,土地所有権を一部,制限する形で,都市住民が農村的環境の中を歩く権利が認められていることが,また高見幸子・国際NGOナチュラルステップ・インターナショナル日本支部代表より,持続可能な社会を形成していくために,林業を振興しバイオマスの利用を促進しているスウェーデンの取組みが紹介されました。

3 結論

 どうすれば里山の環境が守られるのか,短時間のシンポジウムでこれといった明確な結論を出すことは到底不可能です。しかし,日本の農業が里山に依存していた高度成長以前の状態に戻すことは最早,現実離れしているのであって,里山保全のための新たな理念を打ち立てる必要があります。その一つが「持続可能な社会」です。人類の諸活動が地球の環境容量をはるかに超えてしまっている今日においては,「持続可能な社会」をキーワードに,化石燃料への依存をできるだけ減らして,もう一度,再生可能な資源を多く利用する社会を目指すことは人類の生存にとっても不可欠です。そのため,農林業のあり方をもう一度見直した上で,里山からの再生可能な資源を利用する社会を目指すべきであり,そのような社会の形成によって里山の利用,保全を基本的施策として位置づけていく必要があるのではないでしょうか。

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