関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

シンポジウム

平成20年度 市民の身近にあって利用しやすい司法を目指して-司法基盤の整備と弁護士過疎・偏在の解消を

平成20年度シンポジウム委員会
事務局長 浦田 修志(横浜)

 本年9月26日,神奈川県横浜市内の横浜ロイヤルパークホテルにおいて,平成20年度関東弁護士会連合会シンポジウムが開催された。今回のテーマは「市民の身近にあって利用しやすい司法を目指して-司法基盤の整備と弁護士過疎・偏在の解消を」である。

 冒頭,池田忠正理事長より開会のあいさつがあり,次いで,私が基調報告を行った。裁判官・検察官が弁護士と比べて増えていないこと,支部の裁判官が極めて忙しいこと,刑事訴訟事件を扱わなくなった支部があること等,管内の司法の現状を報告し,管内の弁護士過疎・偏在地域(弁護士1人当たりの人口が3万人を超える裁判所支部の管轄区域)がどこかを地図で示して明らかにした。また,法科大学院及び院生へのアンケート結果を報告し,弁護士が少ない地域で活動したいと思うと回答した院生が37%いたこと等を報告した。その上で,弁護士過疎・偏在の解消に向けた取り組みを進めると同時に,裁判所支部・検察庁支部の基盤整備が必要であることを訴えた。

 続いて,弁護士過疎地の実情を知ってもらうため,管内のひまわり基金法律事務所3ヶ所を修習生と一緒に巡った「ひまわり見学バスツアー」の模様を収めたDVDを放映し,さらに,元鹿嶋ひまわり基金法律事務所所長の谷靖介弁護士から報告を受けた。谷弁護士からは,非常駐ながら優秀な裁判官の能力に頼って膨大な事件が裁かれている現状や,副検事も常駐しておらず,身柄事件を扱っていないことや,通訳人の確保も大変であること等が報告された。

 次に,都留文科大学の後藤道夫教授に「この10年,日本はどう変わったか-格差社会の現状と背景」と題して講演をお願いした。これは,格差社会の中では,弁護士・弁護士会には経済的弱者保護の役割が一層強く求められているからであり,司法改革の背後で市民がどのような人権状況に置かれているかを再認識する意味で企画されたものである。後藤教授は,貧困世帯が急増し,ワーキングプア世帯率は2割弱に上っていること,子育て世帯,母子世帯の貧困率が上がっていること,構造改革が進んだこの10年間で日本型雇用が解体され,各種セイフティネットが縮小されたことがその一因であること等を指摘した。その上で,本格的な福祉国家の形成と大規模な国家施策が必要であること等を指摘し,弁護士に対しては,「能動的な法活動」という表現を用いて,問題を掘り起こす,声にならない声をすくいあげる活動が期待されているとした。

 休憩をはさんで,パネルディスカッションに移った。コーディネーターは杉井静子弁護士,パネリストは,慶応義塾大学法学部教授(元鳥取県知事)の片山善博氏,岡山パブリック法律事務所所長の水谷賢弁護士,元安芸ひまわり基金法律事務所所長の石川裕一弁護士である。パネリストからは多岐わたって示唆に富む発言があり,会場からの質問も受けて,充実した議論が展開された。たとえば,石川弁護士からは,過疎地に赴任した経験に基づき,弁護士から市民に近づいて行って積極的に関与し,全国的に良い司法サービスが受けられるような体制を協力して作っていく必要性があること,片山氏からは,司法へのルートをインフラとして設けることが行政としては重要であり,権利を侵害された人が司法制度に基づいて自分で問題を解決できるようにする必要があること,水谷弁護士からは,地方の都市型公設事務所によって,地元の司法過疎を地元で解消すること,地域の中で問題解決のネットワークを作ること,若い弁護士を受け入れ,必要な地域に送りだしていく人事の循環が必要であることなどが語られた。

 最後に,間部俊明シンポジウム委員会委員長より閉会のあいさつがあった。弁護士1人当たりの人口が3万人を超える裁判所支部の管轄区域が管内にまだ21ヵ所あり,その解消を各弁護士会に呼びかけて本シンポジウムは閉会した。本シンポジウムの参加者は588名であった。

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