平成30年度シンポジウム委員会
委員長 二関 辰郎(第二東京)
9月28日(金),「ウエスティンホテル東京」(恵比寿)にて,「未来への記録――自治体の公文書管理の現場から」と題してシンポジウムを開催しました。昨今,自衛隊日報問題,森友学園問題,加計学園問題など,様々な公文書管理をめぐる問題が露呈しています。これらはいずれも国レベルの問題ですが,本シンポジウムは自治体の公文書管理に焦点を当てたものでした。比較的地味なテーマとも言えますが,当日は盛況で440名以上の方々の参加がありました。
担当会である二弁会長による開会宣言に続き,三宅弘関弁連理事長からの開会挨拶がありました。この挨拶は一般的な開会挨拶とはひと味違い,パワーポイントを駆使して法律の具体的問題点などを詳細に解説するものでした。実は,三宅理事長は,国の公文書管理委員会委員も務めたこの分野の第一人者で,当委員会発足時の委員長でもあります。挨拶用に20枚を超えるスライドが用意されているのを見て,「果たして予定時間内に終わるのか」が当委員会の最大の懸案事項となりました。そのためタイムキーパーを急遽増員したほどです。この対策のおかげか,あるいは本人の自覚ゆえか,無事予定の時間内で終わりました(充実した内容であったことも付記しておきます。)。
次に,公文書管理法の制定に尽力し,同法の生みの親と言われる福田康夫元総理大臣のビデオレターが上映されました。戦争で焼け落ちた前橋の写真を探したものの日本では見つからず,アメリカ国立公文書館で見つかったことがあったそうです。この経験が,福田元総理が公文書管理に関心を持つきっかけとなり,後の法律制定につながったとのことです。各地域の歴史の積み上げが国の歴史を形成するのであって自治体の公文書管理は重要だ,という福田元総理による条例制定への応援メッセージも伝えられました。
当委員会では,関弁連管内の全自治体(約490)と公文書管理条例制定済の全国の20自治体を対象とする大型アンケートを実施しました。また,9か所の自治体への現地調査も行いました。これらの結果を踏まえ,当委員会では,1年間の活動の成果として,資料編を含めて全413頁の報告書を作成しました。シンポジウム当日は,その概要を次の分担で報告しました。
①「はじめに」 小林育美委員(長野県)
②第1章「答申例の分析」 高橋涼子委員(第二東京)
③第2章「条例制定済自治体」 齋藤裕副委員長(新潟県)
④第3章「条例未制定自治体」 吉村薫委員(第二東京)
⑤第4章「公文書の電子化」 吉澤宏治副委員長(山梨県)
⑥第5章「制度的・人的担保措置」 川野智弘委員(第二東京)
休憩を挟み,約90分間のパネルディスカッションが行われました。シンポジウムのサブタイトルのとおり,当委員会では,自治体の現場感覚を重視していました。そのため,戸田市で公文書の電子システム管理を長年担当してきた榎本好伸氏と,神奈川県公文書管理館資料課の寳田陽子氏をパネリストにお迎えしました。また,公文書管理法制を長年研究してきた東洋大学教授早川和宏氏に法律的な説明をお願いしました。コーディネーターは,当委員会の大島義則事務局長です。
冒頭の早川氏の報告は,条例によらない公文書管理にどのような問題があるかを,たとえば,「何を公文書として作成・取得するかは,執行機関ごとに決めますのでご安心ください!」と,逆説的にわかりやすく解説するものでした。榎本氏の報告は,実際の入力画面を示すなどして,戸田市で現に採用している総合文書管理システムを説明するものでした。寳田氏の報告は,神奈川県公文書館の概要説明です。保存期間3年以上の文書は原課から公文書館がいったん全て引取り,公文書館長が選別・廃棄を行っていること,年間1万箱を超過する段ボール箱が運び込まれることなどが報告されました。
後半はディスカッションです。たとえば,加計学園問題では,内部討議の記録が作成されていなかったという話があります。公務員の意思決定は必ず起案決裁を経て行うので,文書の不存在(不作成)は公務員感覚としてあり得ないといった指摘がありました。また,電子文書化をすれば,いつ誰が文書を変更したか履歴が残るので改ざん抑止になるとの指摘もありました。会場からは,住民提出の申請用紙が紙の場合に電子化はかえって非効率ではないかなど,自治体関係者からの質問が複数出されました。現場感覚を重視したいという企画意図に沿った展開であったと思います。自治体職員の参加者も多く,好評であったことが当日のアンケート結果からもうかがえました。
冒頭述べたとおり,昨年来,公文書管理に関するさまざまな事件が露呈しています。森友学園問題では,財務省の決裁文書改ざんという信じがたい事件が起こったにもかかわらず,徹底した事実調査もなされていません。社会が自浄作用を失ったのではないかと思わせるような状況です。公文書管理は,流行り廃りの問題ではなく,継続した取り組みが大切です。メディアで取り上げられる機会も減ってきたこの時期に,関弁連が公文書管理をテーマとするシンポジウムを開催できたことはタイムリーで意義深いと思います。
市町村合併で数が減ったとはいえ,全国の自治体数は1700程度あります。その中で,公文書管理条例を制定済の自治体数は,本シンポジウム時点で全国でも20程度にとどまります。このシンポジウムが,多くの自治体でより良い条例を制定するきっかけになってくれれば当委員会として喜ばしいことです。
さらに,同日採択された大会宣言では,公文書管理や情報公開法制の研究検討をテーマとする活動を各単位会で継続的に行うよう求めています。会員の皆様のご協力をよろしくお願いいたします。