2022年度シンポジウム委員会事務局長 高橋 大祐(第一東京)
10月14日(金)午前に、東京都千代田区の東京會舘の会議場において、対面及びオンラインのハイブリッド形式により、2022年度関弁連シンポジウム「再生可能エネルギー-国、地域、企業の取組みと弁護士の役割-」が開催された。
気候変動問題やエネルギー問題が喫緊の課題となっている現在、太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなどの再生可能エネルギーが、地球温暖化対策にも役立ち、クリーンエネルギーの安定供給にもつながり、持続可能な開発目標(SDGs)の実現するものとして注目されている。日本政府も「2050年カーボンニュートラル実現」という政府目標を掲げ再生可能エネルギーの導入と活用を推進しており、様々な地域や企業において取組みが行われている。
本シンポジウムは、このような再生可能エネルギーの導入と活用についての各地域の取組みと問題の実情を調査した上で、課題解決のための弁護士の役割を議論することを目的として開催された。
基調講演として、丸山康司名古屋大学大学院環境学研究科教授に「再生可能エネルギーの社会的受容性」と題するテーマでご講演いただいた。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入が全国各地で進められているものの、地域住民から、景観悪化、災害増加、光害、騒音・低周波、生態系破壊などの生活・自然環境への悪影響への懸念から反対・苦情などが生じていることが紹介された。このような環境影響に関する地域住民の感受性は様々な要素に影響を受ける。そのため、再生可能エネルギーの社会的受容性は、例えば、施設と地域住民の生活地域の距離を確保すれば課題が解消されるという関係になく、画一的な規制的対応に限界があることが説明された。その上で、社会受容性を高めるためには、透明性のある社会的合意形成のプロセスが必要であることが示唆された。丸山教授は、特に、市民や専門家が事業の計画・実施プロセスに早期の段階から関与すること重要性を強調した。また、地方自治体が主体となって条例制定などの方法により望ましい事業のあり方をルール化すると共に、望ましい事業を積極的に支援する政策的手法の可能性を提示した。その上で、弁護士会や弁護士が、地域にこのような合意形成・政策形成の積極的を関与・支援することに対する期待を示した。
基調講演に続いて、シンポジウム委員会による報告が行われた。シンポジウム委員会は、本シンポジウムにあたって、第1部会・法制度・法実務チーム、第2部会・地域トラブル防止チーム及び第3部会・地域創生チームに分かれて調査研究を行った。
再生可能エネルギーは、地域社会との関係で、「地域の自然・生活環境を悪化させトラブルを生じさせうる負の影響」と「地域社会・経済を活性化し地域創生に役立ちうる正の影響」という両面的な影響がある。第2部会は、負の影響の防止の観点から、各地のトラブル事例を整理したうえで、トラブル防止の対応策を検討した。第3部会では正の影響の促進の観点から、地域社会・経済の活性化に資する好事例を整理したうえで、その促進策を検討した。このような第2・3部会における検討の前提として、第1部会は、再生可能エネルギーに関する法制度を整理し、特に地球温暖化対策推進法改正により創設された「地域脱炭素化促進事業制度」の意義と課題を検討した。
シンポジウムでは、以上の調査研究の成果物である報告書に沿って、報告が行われた。報告書は、地域における再生可能エネルギー促進の意義と課題を理解し、弁護士が再生可能エネルギーに関して果たせる役割を検討するにあたって大変参考になる内容になっている。是非ご参照されたい。
(こちらから報告書のダウンロードが可能です。なお,報告書の内容等につき変更はご遠慮ください。)
基調講演及び委員会報告をふまえて、基調講演者の丸山教授、シンポジウム委員会各部会の委員、地域における再生可能エネルギーの導入の実務に詳しい東京大学大学院工学系研究科特任研究員の吉岡剛氏をパネリストとして、地域における再生可能エネルギーを持続可能な形で促進するための弁護士の役割について議論が行われた。
弁護士は、事業者、金融機関、地域住民、国・地方公共団体、NGO団体、研究機関など再生可能エネルギー事業を関わる様々なステークホルダーを支援することが期待されている。実際に、本パネルディスカッションにも、再生可能エネルギー事業会社の社内弁護士、事業者・金融機関を支援する弁護士、地域住民やNGO団体を支援する弁護士、研究機関に所属する弁護士など多様なバックグラウンドを有する弁護士が登壇して議論を行った。
弁護士が地域と共生する形での再生可能エネルギーの促進に貢献するためには、いずれの立場で支援・活動を行う場合であっても、紛争の解決と共に予防における支援、地域のトラブル防止と共に活性化の支援、都市と地域の弁護士の協働などの視点が重要となることが強調された。また、弁護士が、権利調整・合意形成の専門家として、地方自治体に設置されている又は設置予定の再生可能エネルギー事業に関する協議会や環境影響評価に関する審議会等に積極的に参加することに対する期待も共有された。
本シンポジウムをふまえて、関弁連定期大会において、渡部朋広シンポジウム委員会委員長より、「地球環境と未来のための持続可能で地域に根ざした再生可能エネルギーの導入と発展のための宣言」を提案し、賛成多数により採択をいただいた。本シンポジウム及び定期大会を契機として、地域における再生可能エネルギーを持続可能な形で促進するために、より一層弁護士が役割を果たしていくことを期待したい。